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前回に引き続き、11月18日の文学フリマで購入した本についての記事です。


北九州書房『溶鉱炉』第4号
北九州市立大学卒業生の方々による作品集。以前購入した2号、3号がいずれも高水準の作品群だったので、今回も購入と相成りました。
高品質な物語を安定的に書き続けられる方が多いのがこのサークルさんの特徴といえるかもしれません。人生における「挫折」を丁寧に、しかし絶望に走ることなく描写した中野亮さんの「端島、波のむこう」や、軍人の胸に去来する思いを描いた増田原樹さんの「安らかな眠りのために」など、前号に続いて楽しめた作品が数多くありました。

他方、今号が作品初掲載(?)となる方々もいらっしゃり、その中でも一番興味を引かれたのがこちら↓

さとう大根「福田萌え」
元総理の福田康夫氏に萌えて萌えて仕方がないという「政女」の著者が、福田氏のチャーム・ポイントをひたすら綴っていくというもの。

政治学研究に携わっていると、特定の政治家に憧憬の念を抱く人に出くわすことは珍しくありません。

世間的には歌手や俳優、或いは作家などへ向けられることの多い思慕の念。それが、たまたま政治家へと向けられただけのこと、と言っていいと思います。ちょうど、先日の文学フリマで私のブースの手伝いをしてくれた友人も、「プーチン大統領に萌えてしまう」女性でした。

そんなこともあり、私自身はこの作品を、「あー、分かるよ、その気持ち、うんうん」などと共感・共鳴を覚えながら楽しく読むことができました。僭越な言い方かもしれませんが、著者にはこの作品で綴られた思いを今後も貫いてほしいと思ったりします。


『文芸創作 ほしのたね』第2号

先日の文学フリマの、「お隣さん」でした。

フェリス女学院大学で文芸創作の講義を受講された現役生・OGの方々による作品集です。サークルやゼミではなく、講義の受講生というつながりから生まれた、という経緯が面白いですね。

第2号となる今号の特集テーマは「普通じゃない恋愛」とのこと。

河合舟「受難ごうごう」
特集テーマ「普通じゃない恋愛」を受けて書かれたのであろう短編小説。
内容を一言でまとめると、「おまえたち、そういう目で俺のことを見ていたのか」。
恋愛感情を以って上司に迫る部下二人が、映画「バイオハザード」に登場するゾンビたちに重なって見えるのは私だけか。

もち子「おやすみのドアに背を向ける」
同様に特集テーマに基づく短編小説。
幼馴染の同性の友人が、もし友人以上の存在になってしまったら…?
人間同士の関係というものは、一見当事者の間で内発的に形成されていくように思われがちですが、実際には社会的通念などの外在的要因により形成されていく部分が少なくありません。これは恋愛に限った話ではなく、例えば森鴎外の『高瀬舟』に出てくる「止めを刺す行為」を相手への尊重の念からくるものと捉えるか、それとも犯罪行為と捉えるかも、本人同士の関係だけでは規定されず、社会通念によって規定されてしまっています。
そうした「外在的な人間関係の規定」が持つ力の強さへと、改めて考えを巡らせてくれた作品でした。

暁懐「どんな姿でも、貴方を」
自らの腕に自信を持ち、またその行動の「義」を疑わない整形手術の名医。そんな彼の価値観が、手術を拒む「患者」を前にして崩壊していく過程を描くことで、一見もっともらしくみえる「規範」が価値中立的な現実の中でいかに説得力を持たないかを浮き彫りにする短編小説です。
本作も「普通じゃない恋愛」という特集テーマの下に書かれた短編小説です。ただ、一読み手としては、この作品は公共善(common good)をめぐる是非という、より普遍性の高いテーマに基づいている部分の方が強いのではないかと感じました。この世界に、万人が納得して疑うことのない絶対的な美徳・善・道徳などといったものは存在するのか?というテーマです(もとより、「普通じゃない恋愛」の「普通」も、突き詰めていけば価値基準の絶対性に対する疑問へとつながってきますが)。
この問いに対して「是」と答え、そして絶対的な規範として聖書の存在を掲げたのが中世ヨーロッパのカトリック教会。一方、同じ問いに「否」と答え、絶対的な規範の不存在と、その代替としての価値中立性を掲げたのが「近代」の始祖ともいうべきホッブズ。
教科書的な時間軸に沿っていけば、「この価値基準こそが公共善だ」などというものがあり得ないことは歴史が証明済みです。多様な価値観が混在する現代、各々が信じる価値への信奉を極限まで推し進めれば、そこには「神々の戦い」しか存在しないということも、もはや明白なこと。
そんな現代に至っても尚、しかし人間は公共善を追求したいという思いから無縁ではいられません。私自身、絶対的な正義を「存在しないもの」として退ける考えを持っていながら、他方で宗教的な規範意識を否定するには至っていません(私・高森はクリスチャンです)。
読後、久々に政治思想や政治哲学の古典を読み返したいという思いに駆られました。
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2012.11.28 / Top↑
2012年も残すところ1ヶ月強となりました。

11月末というのは、まだ「今年を振り返る」には早い時期ですが、他方で新しい手帳やカレンダーを買うなど、「来年をにらんだ行動計画を立てる」べき時期でもあります。

私は今年、本業では学術論文を2本書き(1本は明大のジャーナルに掲載済み、もう1本は所属学会の機関誌掲載審査中)、学会発表を福井および東京で計2回行ったのですが、いずれも日本語によるものでした。そういう事情もあり、来年は4月に応募が締め切られる所属学会の英雑誌に英語の論文を投稿しようと考えています(というよりも、先日の学会で英雑誌の編集長や学会長から投稿を持ちかけられた際、「喜んで書きます」と答えてしまった手前、書かないわけにはいかない状況にあったりします)。

小説に関しては、タイを舞台とした長編小説の原案を練り上げつつあり、来年2月のバンコク現地取材を経て執筆に取りかかりますが、これとは別に、以前このブログで書いた「最後のトルタ」への投稿小説も書き始めています。舞台は1970年代、軍事政権下の韓国。このところ長編しか書いていない私にとっては、およそ5年ぶりに書く中編(文庫本100ページ前後)です。

尚この中編作品は、「最後のトルタ」が執筆言語を不問としていることもあり、韓国語で書いています。韓国留学中、韓国語のアカデミック・ペーパーについては勿論いくつも書きましたが、文芸作品を書くのはこれが初めて。なかなか楽しい作業です。

…と、来年春までの大まかな予定を綴ったところで、先週の文学フリマで購入した本について綴っていきます。


TAKA『シトロンシーズン』
サークル・True Memory のTAKAさんがお書きになった長編小説。ちなみに、TAKAさんとは6月の福岡ポエイチの際、懇親会でお話をしました。とても実直そうな、それでいて話の上手い方です。
著者が「初めての方におススメ」と推す本作は、吹奏楽部員にして箱入り娘の女子高生・くるみが、ふとしたことでコンビニのバイトを始め、そこに去来する人間関係に揉まれながら成長していく過程を描いた作品。
主人公・くるみは、箱入り娘なだけに度々「甘えの論理」に基づく行動をとります。本書は、その彼女がとる「甘え」の行動がとても丁寧に描かれていて、「私にかまってほしい」「私の思いを忖度して振舞ってほしい」という彼女の(幾分自己中心的な)思いが、読み手に現実感を以って伝わってきました。読んでいる最中、女子高生と日常的に接している者として、「あー、そうそう、十代半ばの女の子って、そういう我が侭を言うよね」と納得のいく場面がいくつもありました。


『まちあかり―夢灯―』
文学フリマに出店すること4回目となる女性中心の文芸サークル「まちあかり」の作品集。私が購入したのは昨年秋、今年春に続いて3回目。ちなみに、売り手の方には私の顔を覚えられていました…。
今回の作品集のテーマは「夢」。巻頭・巻末にある都春奏太さんの2編の詩「ゆめとゆめ」が心に沁みました。
萌黄桂さんの掌編小説「作者と助手」で、作家とそのアシスタントが交わす言葉から滲み出る「誠意のなさ」もいいですね。かつて私が、10年近くに渡って執筆活動の相談相手としていた友人と度々交わした会話、

「今回の高森さんの作品、すごく良いと思うよ」
「どの辺が?」
「全体的に」

に匹敵する誠意のなさです。


原廠設計局『ずんばらリン!未来世紀の優雅な生活』
前述『まちあかり』さんと並び、リピーターとして売り手の方に顔を覚えられていたサークルです。
社会主義一党独裁下にある22世紀の日本を舞台としたチャンバラ小説。
商業作品には真似できない「共産趣味」全開のマニアックさは相変わらず。
陸軍登戸研究所の跡地にキャンパスを有する大学の関係者として、「小田急小田原線生田駅から徒歩十分程度」のところにある「極秘研究本部」が出てきたのは嬉しいですね。
2012.11.26 / Top↑
昨日、第十五回文学フリマが開催されました。

私・高森のブースにお立ち寄りくださった皆様、本当にありがとうございました。

今回のイベントでは、当サークルの見本誌を読んで興味を持って下さった方や、前回の文学フリマでも当サークルの旧作を購入して下さった方など、10人を超える方々に作品を購入して頂きました。重ねて御礼申し上げます。

私の即売会出店は、本年についてはこれで終了し、次回の出店は来年3月以降となります。それに先立つ2月には次回作の取材で東南アジアを訪問する予定が固まりつつあり、こちらと併せてご期待頂ければと思います。
2012.11.19 / Top↑
今月18日に開催される「第十五回文学フリマ」では、私・高森は‘B-35’のブースを割り当てていただきました。

公式サイトの配置図によると、入口から見て一番奥、コーナーの位置ですね。

当日は当該ブースにて、友人の手伝いを頂きつつ以下の3作品を販売する予定です。

『共和国の貴族』(2012年作)…頒布価格:500円
1980年代半ば、日本人大蔵官僚・日野徹はマニラに本部を置く国際機関・アジア開発銀行への出向命令を受け、フィリピンへと赴く。折しも大統領フェルディナンド・マルコスの独裁に批判の高まっていた同国では、野党上院議員の暗殺事件を契機として一気に民主化運動が高まっていた。現地で発展途上国の開発支援に従事していた日野は、しかしルソン島中南部の港湾都市・バタンガスでとある未亡人と出会ったことにより、ダイナミックな政治変動の陰でフィリピンを束縛してきた貧困問題が放置されていることを気にかけるようになる…。
「民主主義=善、独裁=悪」という単純な図式は、時に発展途上国を見る目を誤らせてしまう。そうした陥穽を、中年男性と母子の関わりを軸にして物語化しました。


『疎遠なる同胞』(2011年作)…頒布価格:500円
インドシナに派兵された韓国軍によって両親を殺されたベトナム人少女。当時の南ベトナム首都・サイゴンへと逃れてきた挙げ句、皮肉にも韓国人記者に雇われることとなった彼女の視点から、戦争最末期のベトナムを描き出します。国籍やエスニシティ、或いは国民性といったフィルターを介して世界を見ることの危うさを感じて頂ければ幸いです。


『帰るべき国』(2009年作)…頒布価格:500円
1919年の3・1独立運動で両親を日本人官憲に殺された朝鮮人青年ファン・シンベクは、残された家族から父と母の志を継ぐよう説得される。しかし青年は、貧しさに甘んじながら大義のために命を懸ける道を退け、日本人資本の下で豊かな生活を手に入れる道を目指す。やがて青年は、日本資本の中国大陸進出に乗る形で天津へ赴くが、その選択は彼の人生を多き狂わせることとなった…。20世紀東アジアの政治諸変動が、多くの人々をして「物質的により豊かで、安寧な生活を送ること」を困難たらしめた現実を浮き彫りにします。

皆様のお越しをお待ちしております。
2012.11.05 / Top↑