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今月出店した即売会‘Text-Revolutions 2’と「第一回文学フリマ福岡」では、他サークルさんの本をいくつか購入させて頂きましたが、本日はそれらのうち特に気に入ったもの2点について、感想を記したいと思います。


『おなかがすいて眠れぬ夜に』

個人文芸サークルの「こんぽた。」さん(http://conpotanomoo.blog.fc2.com)が編集された掌編小説集。48人の書き手が作品を寄せたもので、本書のタイトルが示すように、いずれも食事を題材とした作品となっています。

どんな人でも、たいてい日に3回、食事をとることになるので、それだけ食事というものは人それぞれの個性が出る領域。この作品集も、大変に幅の広い内容となっています。関東人が初めて本場のたこ焼きを食べた時のカルチャーショック、家出から戻ってきた後の家庭の味、彼女が彼氏のために、初めて、そして悪戦苦闘しながら作ったお弁当…。

お腹が空いて眠れない夜に開き、ほっと幸せになって眠れる一冊を…という趣旨で編集されたアンソロジーのようですが、その狙い通り、読んでいて心の温まる作品が多く掲載されています。

個人的には、私自身の経験も手伝い、家庭の味(ないし、おふくろの味)にまつわる諸作品を楽しく読ませて頂きました。

私の13年来の友人で、既に何年も前に結婚、現在専業主婦をしている女性がいます。社交性に富む彼女は友人を家庭に招くタイプで、私のこともこれまでに幾度となく家に呼び、食事を振る舞ってくれています。もとより、彼女は新婚当初から必ずしも料理を得意としておらず、実際、新婚間もない時期に家に呼ばれた際には「餡がスープ状になっている餡かけ焼きそば」などというものを出された記憶があります(片栗粉の配分をしくじったのだそうです…)。

しかし、その後も料理サイトを見て勉強するなどして彼女の腕は着実に向上、今では来客である私を唸らせるだけの、そして3人の子供に日々「おふくろの味」を食べさせるところに至っています。家庭の味ないしおふくろの味とは、母本人の努力の賜物でもあるのですね…。

こんなことも思い起こさせてくれるような、食事にまつわる、少し幸せになれるエピソードが詰め込まれた作品集です。即売会でお見かけの際は、是非購入されることをお勧めします。



『文士三文オペラ:太宰治本』

文学フリマ福岡でお隣さんだった「はいからヒストリカル」さん(http://haikarahis.blog.fc2.com)が新刊として頒布されていた、太宰治の人生を描いた漫画です。

本ブログ内で何度か書いてきましたが、そもそも私が小説を書くようになった原点は、13歳中学2年生の時に太宰の諸作品にはまるという、今でいえば典型的な中二病の発症の仕方をしたことです。

10代後半から20歳前後までに、佐々木譲と逢坂剛、そして帚木蓬生の書いた歴史長編小説に強い影響を受け、かつ本業で東アジア政治の研究に自分の人生を賭けると決心したため、今では自身の作風にその名残らしいものは殆どないのですが…。現在の私に太宰の名残を見出すとしたら、名前ぐらいですね。私の筆名の「高森」は、太宰が愛飲していた煙草であるゴールデンバットのバット、すなわち「コウモリ」に当て字をしたことに由来しますので。

それでも、私の小説書きとしての原点は、太宰治に触れたことにあります。私のツイッター・アカウント@takamori_jのカバーデザインには、3年前の金木訪問の際に撮影した斜陽館の写真が使われていますが、これは小説書きとしての原点に対する、私なりの敬意を表したものでもあります。

閑話休題。

主に、故郷である青森県金木村(現・五所川原市)で執筆されたコミカルな作品を通じて、小説家としての才能を現在に至るまで読者に見せつけ、そして少なからぬ読み手を惹きつけてきた太宰ですが、そのファン層が女性に寄っているというのは有名な話。しかし、こちらの漫画にも指摘されている通り、彼のルックスを考えればこれは当然のこと。いかにも名家の生まれ育ちらしい、整った顔立ちをしているんですね。

実際、太宰は花街では非常に人気があったのだそうです。本作では、そんな太宰が放蕩を重ねつつ、大都市・東京に出て生きて行こうとするも、幾度となく挫折し、しかし周囲の支えによって起き上がっていく(本人の意に反してでもそうさせられていく)過程を、そしてその間に結婚を経つつも「放蕩」を重ねていく様子を、分かりやすく描いています。彼が津軽の超絶名家・津島家(衆議院青森1区は現在でもこの一族の牙城ですね)の出身であり、そのことに複雑な思いを抱いていたことがコマとコマの合間から伝わってくるのも秀逸です。

学校の図書館によく置いてあるような伝記漫画の類いではなく、小説家としての太宰の一生涯を描いたものにはなっていないのですが、しかし太宰作品に触れ、その魅力に見せられた著者が御自身の理解されている太宰像を提示したものになっているという点では、単に通史的に綴る伝記物よりも面白い一冊に仕上がっています。
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2015.10.31 / Top↑
昨日、第一回文学フリマ福岡に出店してきました。

私・高森は帰りの飛行機の都合で終了時刻よりも前に撤収させて頂いたのですが、それでも、持ち込んだ3作品中2作品が売り切れる好評ぶりでした。当ブースに足を運んで下さった皆様に御礼申し上げます。

今回の文フリ福岡は、イベント全体で見ても一般来場者数650人と、大いに盛り上がったようです。来年7月には札幌で開催、また同9月には盛岡で開催予定であるのに加え、再来年以降は更に開催地を広げる構想もあるようです。日本に限らず、世界的に見ても商業出版というものが人口数百万以上の大都市に集約されがちである中(例えば、洋書の世界的メジャーであるCambridge University PressやRoutledgeも、営業拠点はロンドンやニューヨーク、シンガポールなどの大都市に限られています)、メガシティ・東京以外にも文芸創作活動の幅を広げることは、思わぬ潜在的需要を掘り起こすものかもしれません。

なお、今回の文フリ、私は体調不良の中での参加となりました。市販の風邪薬を服用しつつ参加したのですが、その副作用で眠くなり、他サークルさんや来場者の方に起こされる場面が何度かありました。中には飴を下さる方がいて、それで眠気を紛らわす場面もあり…御礼申し上げるとともに、お詫び申し上げます。

次回の即売会出店は11月23日の文学フリマ東京。今度は、体調に万全を期した上で参加したいと思います。
2015.10.26 / Top↑
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今日の夕方、明治大学に博士論文を提出しました。年末の口頭試問と、その後の学内手続きを経て、来年2月には博士(政治学)の授与の可否が決まる予定です。

論文の内容は、1960年代以降、政府主導の開発政策が進められ、ヒュンダイやサムスンなどの財閥に代表される工業部門が急成長を遂げた韓国が、その一方で農業部門の近代化にも成功したこと、そしてその背景に、政府指導者、とりわけ朴槿恵・現大統領の父親である元大統領・朴正煕の農村に対する強力なコミットメントがあり、かつそれが朴正煕の没後も韓国政治において経路依存性を持つようになったと論じるもの。

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昨年夏、ソウル市内にある朴正煕大統領記念館を訪問した際に撮影した、朴正煕の公式肖像画。

「貧困の克服と経済発展を成し遂げた独裁者」であり、韓国では今なお論争の対象であり続けている人物ですが、その命日(10月26日)を前に、「農政分野の実績について、今の自分の能力で客観的に分析しきれるところはやりきった」という思いです。

前置きが長くなりました。

先日富山で行った学会発表に加えてこの博士論文と、過去数週間、本業の方にかかりっきりだったためにほとんど準備ができていないのですが…、来たる25日、福岡市で開かれる即売会・第一回文学フリマ福岡の告知をいたします。

10月25日に福岡市天神で開かれる第一回文学フリマ福岡、私・高森純一郎はブース番号「い‐14」にて以下の3作品を頒布します。


『賢人支配の砂漠』(2014年作)…頒布価格:300円 

東京の大学で教鞭をとっていた在日韓国人三世の経済学者・鄭太植は、『在日』をめぐる左右両翼の論争に嫌気がさす中、中東・ドバイの大学から赴任のオファーを受ける。日本国内に留まることへの疲労感もあってそのオファーに応じた太植だったが、遊牧民の伝統を残すアラビア半島の部族社会は、やがて彼に「支配」をめぐる新たな考えを抱かせるようになる。
昨今の「アラブの春」にもかかわらず、絶対君主制を維持するアラビア半島諸国。その内面に目を向けることで、支配・統治のあり方の多様性を描き出します。

『疎遠なる同胞』(2011年作)…頒布価格:500円

インドシナに派兵された韓国軍によって両親を殺されたベトナム人少女。身の危険を感じた彼女は、当時の南ベトナム首都・サイゴンへと逃れるも、避難先で食いつないでいくため、韓国人従軍記者に雇われ、この記者の下で生活することとなる。やがて、共産軍が南へ侵攻、サイゴン陥落が目前に迫った段階で彼女は…。
外国人の兵士に肉親を殺され、他方同じ国の記者と暮らすことで生き延びた少女の視点から、戦争最末期のベトナムを描き出します。国籍やエスニシティ、或いは国民性といったフィルターを介して世界を見ることの危うさを感じて頂ければ幸いです。

『半島と海峡の狭間で』(2007年作/2014年改訂)
…頒布価格:300円


1970年代初頭、韓国大使館員として台北に赴任したキム・ギョンナムは、当地で日米両国が大陸・中華人民共和国に接近し、台湾が国際的に孤立するという状況に直面する。国民党一党独裁下の台湾と、軍事政権下の韓国。反共を国是とする両体制を行き来する彼は、しかし同じ資本主義陣営に属するはずの日米が大陸の共産党政権へと接近していく中、自国の、そして赴任先の政治体制に疑問を抱く。やがてその疑問は、彼の外交官としての立場を危ういものにしていき…。
冷戦体制下の1970年代、日米両国と同じ西側陣営に所属していながら、大陸中国との修交という選択肢をとることのできなかった反共分断国家・韓国の視点を通じ、東西両陣営の対立がアジアに残した痕跡を描写した作品です。


多くの方のお越しをお待ちしております。
2015.10.22 / Top↑
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この土日、富山大学で開催された学会に出席し、研究発表を1本行ってきました。

今回の学会は北東アジア学会という、名前の通り、北東アジアの地域研究者が集まる学会の年次大会。

私が同学会で発表するのは、これで4年連続。今回の発表は、1990年代末から韓国が進めている有機農業政策を、有機農業の先発国であるイギリス、特にイングランドと比較し、その含意を導出するというもの。

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去る1月にロンドン郊外のルートン空港付近で撮影した、イングランドの農場の一風景。雨が降る中、列車内から撮影したので不鮮明かもしれませんが、なだらかな地形の上に、見渡す限りの畑が広がっています。土地の痩せているイメージの強いブリテン島ですが、実は全土の60%以上が耕作可能な平地という、農業に恵まれた場所です。

そうした、効率的な農業を営みやすい環境下、政府が補助金制度を効果的に用いた結果、イングランドでは有機農産物の価格が低水準に抑えられ、有機農業・農産物の普及が進んでいます。

今回の研究は、そのことを明らかにした上で、「有機農業の類いを戦略的に普及させていこうとするなら、有機農産物の価格を下げる状況を作り、そして消費者に有機農産物を買わせようとするインセンティブを付与することが欠かせない」と論じるもの。本研究が韓国にとってだけでなく、今なお「環境に良い」「健康的」といった規範に依拠して有機農業を普及させようとする傾向の強い日本にとっても、一定の参考になればと願っています。

学部生の時から一貫して韓国・東アジア地域の政治を専攻してきた私にとって、公の場でヨーロッパの事例分析を行うのはこれが初めてでした。

ただ、フロアーにいたヨーロッパ政治の研究者から特にクレームがつくこともなく、他方で発表内容への質問がいくつか出たということで、大変に充実した時間を過ごせました。

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東京への帰路、直江津から越後湯沢まで乗った北越急行の「超快速スノーラビット」。北陸新幹線開業に伴って特急「はくたか」は新幹線に移管されましたが、表定速度88km/hを誇る日本最速の快速列車は、かつての「はくたか」に劣らず、本州横断ルートの一翼を担ってくれています。
2015.10.18 / Top↑
本日、浅草の都立産業貿易センター台東館で開催された即売会・第2回Text-Revolutions(テキレボ)に出店いたしました。

諸事情から会場に仕事を持ち込み、ブース在席中もタブレットで(本業の)原稿を書きつつ接客をするという失礼もしてしまいましたが、そんな中でも当ブースに関心を示して下さり、かつ拙作を購入して下さる方が少なからずいらっしゃいました。また、以前の即売会でお会いした他サークルの方々と交流する機会も持てました。心から御礼申し上げます。

ちなみに、テキレボは文学フリマや福岡ポエイチと異なり、会場にBGMが流れるのですが、今回の会場で流れていた曲というのが、中島みゆきの「地上の星」や相川七瀬の‘Nostalgia’、はたまたFF5の「ビッグブリッヂの死闘」と、1984年生まれの私にとっては「懐かしい」ものばかり。選曲者の方も、ひょっとするとその辺の年齢層なのかもしれません。

閑話休題。

今回のイベントでは、久しぶりに他サークルさんの作品を数多く買わせていただきました。これらの作品については、随時感想を記していきたいと思います。

次の私の即売会出店は、10月25日に福岡市で開催される「第一回文学フリマ福岡」です。多くの方のご来場をお待ちしております。
2015.10.10 / Top↑
今度の土曜日、10月10日に、東京都立産業貿易センター台東館にて即売会‘第2回Text-Revolutions’が開催されます。

都立産業貿易センターは、一昨年10月、最初にして最後の出展参加となった「タトホン」で浜松町館のお世話になりました。浅草にある台東館のお世話になるのは今回が初めてですね。

私・高森純一郎のブース番号はC-43。今回の頒布作品は、以下の2種類です。


『賢人支配の砂漠』(2014年作)…頒布価格:300円 
東京の大学で教鞭をとっていた在日韓国人三世の経済学者・鄭太植は、『在日』をめぐる左右両翼の論争に嫌気がさす中、中東・ドバイの大学から赴任のオファーを受ける。日本国内に留まることへの疲労感もあってそのオファーに応じた太植だったが、遊牧民の伝統を残すアラビア半島の部族社会は、やがて彼に「支配」をめぐる新たな考えを抱かせるようになる。
昨今の「アラブの春」にもかかわらず、絶対君主制を維持するアラビア半島諸国。その内面に目を向けることで、支配・統治のあり方の多様性を描き出します。

『疎遠なる同胞』(2011年作)…頒布価格:500円
インドシナに派兵された韓国軍によって両親を殺されたベトナム人少女。身の危険を感じた彼女は、当時の南ベトナム首都・サイゴンへと逃れるも、避難先で食いつないでいくため、韓国人従軍記者に雇われ、この記者の下で生活することとなる。やがて、共産軍が南へ侵攻、サイゴン陥落が目前に迫った段階で彼女は…。
外国人の兵士に肉親を殺され、他方同じ国の記者と暮らすことで生き延びた少女の視点から、戦争最末期のベトナムを描き出します。国籍やエスニシティ、或いは国民性といったフィルターを介して世界を見ることの危うさを感じて頂ければ幸いです。


既刊のみ2種類という、やや寂しいラインナップに加え、即売会当日に会場で予定されている各種イベントに関連したものも特に用意できず、申し訳なく思うところもあります。

ただ、上記2作品は、いずれも読者の方からご好評を頂いているものです。まだお読みになっていないという方は、この機会に是非、お手にとっていただければと思います。

なお、私は即売会に出展する際、頒布作品のあらすじを書いたフライヤーを作成・配布しております。今回は、頒布作品が2種類のみでフライヤーの紙面構成に余裕ができましたので、作品の概要に加え、以下のような挨拶文も記しておきました。

ごあいさつ
高森純一郎と申します。普段は都内の大学で東アジア政治の研究をしています。
本業の傍らで、様々な研究資料から読み取れるアジア各地の近現代史をめぐる意外な事実、忘れられがちな側面などを題材とした小説を書いています。
日本中心の、あるいは日本国内の政治的・経済的・社会的価値観を引きずったままユーラシア大陸を見るのではなく、むしろそれらを一度傍らに置き、徹底的にローカルな視点から異国の姿を描いていく…。その先に見出す「何か」は、思いのほか、私たちにとって重要な意味を含んでいるかもしれません。
気候風土も、時代も、宗教も、もちろん言語も異なる土地で生きる人々の物語から、現代の日本に生きる私たちにとって重要な含意を導き出していただければ、著者としてはこの上なく幸いです。


即売会当日、多くの方のお越しをお待ちしております。
2015.10.05 / Top↑
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北海道へ行ってきました。上の写真は来年7月に第一回文学フリマ札幌が開催される予定の札幌テレビ塔。初の北海道での文学フリマ。可能であれば、私も出店したいと思っています。

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今年の北海道訪問は5月の稚内に続き2回目。今回は漁港の町・留萌へ行ってきました。

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ニシンやカズノコで知られる土地だけに、留萌駅の立ち食いそばには「にしんそば」なるものもありました。なかなかの美味ですので留萌訪問の際は、是非お試しを。

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さて、今回の留萌訪問では、函館本線の深川駅から伸びる留萌本線という路線を利用したのですが、この路線、北海道内のローカル線の御多分に洩れず乗客減が続いており、再来年春には末端区間である留萌・増毛間の廃線が予定されているのだそうです。

今回、残念ながら低気圧の影響で当該区間は運休となっており、私が乗車することはできなかったのですが、当面存続する見通しの深川・留萌間に乗った際でさえ、見たところ1列車あたり乗客数は10名程度。末端区間の乗車率はもっと低いのでしょう。

そのようなローカル輸送の窮状に、JR北海道の経営体力は既に限界に達しており、同社は先月末、「普通列車用の気動車に、これ以上の使用に耐えられないほど老朽化したものがあり、かつそれらを代替する車両がない」こと、および「ローカル輸送の利用者が減少しており、運行本数の維持が困難である」ことを理由に、非電化区間の普通列車を減便し、利用者がほとんどいない駅を廃止すると発表しました。

民営化以来28年あまり。この間、本州以南のJR他社は随時ローカル線の減便・減車をしてきました。またJR西日本は、受益者負担の原則に従い、北陸や山陰などローカル線で普通列車用車両を新規導入する際、沿線自治体に資金面での支援を求めています。JR北海道の措置は遅きに失した感が否めませんが、一利用客としては、これも過去数年で表面化している同社の「病理」であるとし、その改革の動向を見守りたいと思います。

ただ、その一方で私は、今のJR北海道の「経営危機」と「遅すぎた改革」という惨状が、将来の日本の鉄道輸送全体の縮図なのではないかという懸念も抱いています。

日本の鉄道輸送は既に減少局面に入っており、今後もそれは長期に渡って続くと予想されています。鉄道会社もそのことは分かっており、各社とも、電子マネー事業や小売店事業で収益を確保するようになってきています。また中には、高齢化の進行を踏まえ、鉄道事業においては中高年以上の年齢層を主たる顧客とした取り組みに注力しているという会社もあります。

しかし、鉄道各社が事業の多角化に注力するあまり、日本の鉄道事業に求められている改革…例えば、30年前からほとんど変わっていない旧態依然たる輸送約款、先進諸国の都市間鉄道として他に例が見出し難いほどに硬直化した運賃体系、上下一体保有を前提とした柔軟性に欠ける輸送体系…が置き去りにされてはいないか、不安に思うところがあります。

鉄道各社が「乗客の大半が正規運賃を払っている状態」を当然視している一方、航空各社やバス会社の多くはそうした発想をとうの昔に捨て去り、柔軟な運賃やダイヤ構成で乗客の取り込み、そして新たな市場開拓に成功しています。そのことを考えるに、この種の不安は一層強まるのです。

高年齢層の取り込みについても、柔軟な経営戦略の下で運行される航空やバスに慣れ親しむ私たちのような世代が、20年後、中高年になったとして、その将来の中高年世代は、少なくとも今の中高年世代ほどには「やっぱり飛行機よりも鉄道の方がお得だ」「バスよりも列車の方が安心する」とは考えないでしょう。

かつて、鉄道の祖国・イギリスでは過度に合理性が追求された結果、鉄道事故が頻発し、乗客の信頼を回復するのに長い時間を要したことがありました。

逆に日本では、本質的な鉄道経営の合理化が先延ばしされ、旅客鉄道輸送がジリ貧化していき、かつての世界に冠たる鉄道大国としての誇りが色褪せかねない…今回の北海道訪問では、そうした不安も抱くこととなりました。
2015.10.03 / Top↑